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記録と報告

「かたわ少女」をプレイしました。

 記事タイトルままです。ゴーストもSSも関係ないです。
 以前から気になっていた作品だったのですが、2年ほど前に日本語版が出ていたということで今更。
 まだ全回収までは至っていませんが、とりあえず各ルートのグッドエンド(たぶん)を見て感情が揺さぶられすぎているので感想雑記を。
 ネタバレありです。
 未プレイの方は記事を読む前にプレイするなり読んで興味が出たからプレイするなりでどうぞ。




 まず、プレイ前に具体的な内容については殆ど調べなかったため(意図的に避けるようにしていたというのもありますが)作品の内容は「身体に障害を抱えた女の子とのラブストーリーなんだろうな」みたいな認識でした。
 プロローグで、「ある冬の日、主人公は気になっていた女の子からの告白を受ける」なんてシーンから始まった事もあるでしょう。
 ですが、主人公である「久夫」が倒れ、心臓に問題があると分かって、障害を持つ子どもたちを擁する「山久学園」に転校してからのお話、所謂共通ルートでヒロインたちが出てきて久夫と話をする度に、「おや?」と思い始めました。

 そして、その認識はどうやら間違いではなかったと、最初に入った「笑美」のルートで思い知りました。
 「笑美」は過去の事故で両足を失った少女です。幼少期から陸上(主に短距離走?)を続けており、足を失った後も厳しいリハビリを乗り越え、義足を着けてほぼ毎日陸上競技用トラックを駆け回っているような、元気な女の子です。
 はっきり言ってしまうと、笑美は自分の足が失われたことについては、ほとんど折り合いをつけています。「足のないものの中で最もはやいもの」なんて自称するくらいには自分の足の速さに誇りを持っています。
 だから、笑美と久夫のお話で焦点が当たるのは、「失ったもの」だけではなく、「得てしまったもの」についても同様です。
 目に見える欠損ではなく、もっと内側にある「心の傷」に対して、このゲームにおける主人公である久夫、そして彼の視点を借りるプレイヤーは向き合うことになるのです。

 続けてプレイした「静音」のルートでも同じでした。
 両耳の全聾、更にはそれによる発話障害を抱え、意思疎通は筆談か手話。
 そんな彼女と多くの人の間を繋ぐのは、手話を扱えるクラスメイトの「ミーシャ」。
 音声による意思疎通ができないというのは、簡単に解消できるものではありません。
 異様に大きな音で指を鳴らしたり、人が近づいても中々気づかなかったり、静音が聾者である事は、久夫の視点を借りているプレイヤーには嫌でも忘れさせてくれません。比較的早い段階で久夫が手話を覚え、静音との意思疎通に活かせるようになっても、です。
 しかし、いかにも委員長キャラといった見た目の静音の印象は、久夫と共に彼女を知ることによって「なんでも勝ち負けを決めたがる負けず嫌い」へとあっという間に固定されるのではないでしょうか。
 時に、いや、ほぼ常時、その性質は周囲への棘となり、間に入っているミーシャの朗らかな口調を持ってしても潤滑油とするには足りない。
 彼女を取り巻く物語も、そんな彼女の性質、そしてすぐ傍にいるミーシャの存在が多くを占めることになります。
 正直に言うと、序盤は「おそらく静音がこのルートのメインであり、ミーシャは手話通訳程度、端役でしかない」と予想していましたが、ともすると、静音以上にミーシャの方が印象に残るキャラクターをしていた可能性もあります。特に、彼女の告白については、とてもとても驚かされました。ゲーム中一番驚いたかもしれません。本当に。

 そういうわけで、次に入った「リリー」のルートが比較的おとなしいお話だったのは、非常にありがたい事でした。
 先天性の全盲で、ハーフらしい金髪碧眼、長身、美しい容姿。周囲の「目を引く」のは間違いないのに、リリー本人は生まれついての障害に対してはきちんと折り合いをつけ、自分の目指す道も決めている。とても大人びた少女――あるいは、女性と言ってもいいかもしれない――ヒロイン。
 だから、と言うのもおかしいかもしれませんが、彼女と久夫のお話は、他の子達と比べると幾分落ち着いたロマンスになっています。
 そして、そのロマンスを主に飾るのは、リリーではなく久夫の抱える問題、壊れかけた心臓です。
 学園からコンビニへ少し歩くだけで鼓動がおかしくなる。リリーと彼女の友人である華子と旅行へ行き楽しんでいたのに、ちょっと頑張って歩こうものなら、うずくまって動けなくなる。性的交渉でリードしようとすると、悲鳴を上げる。極めつけは、家族にスコットランドへと呼び戻されたリリーを無理やり追いかけようとして、再入院。
 たぶん、一番久夫が死にかけるルートです。でも、ある意味では一番安心してプレイできるルートではないでしょうか。非常にシンプルなラブストーリーですし。 

 さて、ミーシャとは違い、リリーの友人である「華子」には、個別のルートがあります。
 というか、リリーと華子は基本的にペアで、どちらかに分岐する感じです。なので、華子ルートでのリリーは頻繁に出て来る重要なキャラクターですし、逆もまた。
 幼少期の火事によって両親を失って孤児院に入れられた華子は、自身の半身に残った大きな火傷痕と付き合って生きていく事になります。
 小学校、中学校ではいじめにあったことも、華子の心を閉ざさせる理由になったのでしょう。
 山久学園に来てからもほとんど心を開かず、寮の部屋が隣で自分のやけどが見えることもないリリーにだけ懐いている。先生たちも、華子が強いストレスを抱えていることを知っていて、時に授業を抜け出す事を黙認している。
 そうした状況からほとんどひとりぼっちの華子に向き合う姿勢について、プレイヤーは久夫と共に考えることになります。
 いろんなものに怯えていて、でもゲームや読書が好きな女の子。彼女を「守ってあげたい」と思うのは、きっと自然なことなのでしょう。はい。ドツボでした。
 どうでもいいですが、初見で容姿だけ比べた印象だと華子ちゃんが一番気に入ったので攻略は最後に回そうと思っていたのですが、リリールートでどうしても気になって我慢できなくなってしまったので即華子ルートに入りました。
 結果としては良い選択であったと思います。リリールートと華子ルートでの互いを比べられたというのもありますが、主な理由はもう一つ。

 生まれつき腕がない女の子、琳。
 彼女もまた、リリーと同じように障害についてはきっちり折り合いをつけています。両腕がない事を冗談に使ったり、他人の障害についてずかずか尋ねていくくらいです。
 さて、結果的にルート選択が最後になった事を神に感謝したのは、この琳が、非常に複雑で難解な存在だったからです。
 肘までもない短すぎる腕の代わりに両足を器用に使って食事をする琳は、彼女が取り組んでいる芸術、絵画を描く時にも、足を使います。
 はじめの内こそ、「変わり者の天才芸術家」くらいのざっくりした認識をしていたのですが、知れば知るほど、琳という少女の事は分からなくなります。それは、プレイヤーに視点を貸している久夫も同様でした。
 ほとんど成り行きで琳と学園祭の日を過ごし、琳がいる美術部に入り、意識的に、偶然に、琳と過ごす時間が増えて、ちょっと変わった彼女の行動を見るほど、琳に惹かれるのは間違いありません。
 でも、同時に分からなくもなります。湧いて出たような論説。突拍子のない質問。嘘なのか本当なのか分からない言葉。ころころ変わるようで変わっていないようにも見える目。夢現のような行動。
 琳に近づいているのか近づけていないのか。
 彼女を気に入っている美術部顧問の伝手により、琳が若手芸術家として展覧会をやる方向に話が転がっていくあたりで、更に混乱してきます。
 展覧会のための絵を描くためにアトリエにこもる琳。久夫の手伝いを受け入れたり拒んだり、想いも受け入れたり拒んだり。
 もはや、久夫とシンクロしている気分になります。琳は、絵が最優先。ほかはどうでもいいのか。何も分からない。説明もしてくれない。
 自分を壊すなどと言い出したり、タバコを吸ったり自慰行為をしたり、たぶん、「作中で一番混乱したのは?」と聞かれたら「アトリエのあたりでの琳」と答える人が多いのではないでしょうか。
 そろそろ割愛しますが、とかく琳は久夫を振り回します。本人が望んでいるいないにかかわらず。
 だからこそ、と言いましょうか。琳が感情をぶちまけてくれる――少なくともそう見える――場面は、安堵すら覚えました。
 それでもまだ。久夫と琳のお話が一旦の終わりを迎えるのを見送っても、まだ。プレイヤーである私は取り残された気分でした。
 芸術家本人。それを取り巻くもの。そして、芸術家を愛してしまうもの。
 もしかしたら、そのいずれも幸せになんてなれないのではないか。
 そんな事を思ってしまうくらい、琳というキャラクターと彼女の物語は、強烈なものでした。



 長々と、あるいはざっくりと、中身のない上っ面の形で個別ルートを攻略順に語りましたが、とにかく、本当に良い作品でした。
 主人公である久夫も含めて、登場人物を大事に思わされるだけのキャラクター性、質の高いシナリオがありました。
 そして何より、扱っているテーマ、作品のタイトルやキャラクターたちから受ける第一印象を含む重さが、決して不愉快なものではなかったのです。たぶん、スタッフの方々は情熱と同量くらいの気遣いを作品に込めたのでしょう。
 こんなことを言っていいのか分かりませんが、「物の見方」という事に関しては、驚くほど影響を受けたかもしれません。
 
 たかがノベルゲームで、と一笑に付されるのも仕方無いとは思います。
 でも、少なくとも私にとっては、それくらい力のある作品でした。

 高ぶった感情のままに書いたのでひどい駄文になっているかと思うので多分自分で見返す事のない記事です。
 でもバッドエンドやノーマルエンドを(いずれ)回収できたら、また何か書くかも。その頃には熱も冷めている可能性は高いですが。
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  1. 2017/07/20(木) 02:41:34|
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